50年前、精神科の教授陣の多くは精神病理学の専門家であり、患者との対話や深い理解に基づく診療が主流でした。しかし、生物学的精神医学の隆盛とエビデンス至上主義の影響により、精神医学の潮流は大きく変わりました。精神医学の中心はドイツやフランスから米国に移り、精神病理学の役割が相対的に薄れていったと言えます。しかし、患者と向き合い、言葉を通じた対話から患者の心を理解し描き出すという精神病理学の重要性は変わることなく、今なお私たちの臨床活動に欠かせないものとなっています。
精神医学は、将来、二つの大きな流れに分かれていくのではないかと感じています。一つはエビデンス至上主義を貫き、心を脳という臓器の機能・作用として認識する「生物学的精神医学」で、もう一つは精神病理学や人間の心の複雑さを重視した「純粋精神医学」とでも呼ぶべき流れです。今日の精神医学に求められているのは、これら「科学的エビデンスを重視すべき領域」と「科学的エビデンスでは測れない領域」の両者を認識すること、そしてそれらを統合した視点で患者を理解することと言えるでしょう。
精神医学のこうした潮流のなかで、わが国の大半の大学講座は生物学的精神医学に重きを置いています。その中で私たちは、純粋精神医学のカラーを前面に出したユニークな大学講座を目指しています。私たちが大切にしているのは、「今まさに目の前にいる患者」を、先人たちによって蓄積されてきた知見と自らの経験を拠り所にして助けようとする臨床医としての姿勢です。臨床力を第一として、教育力、リサーチマインドを併せ持った優れた精神科臨床医を育てるべく、日々努力しています。
患者の人生に寄り添い、真摯な対話を通じて患者の心を理解し、その人にとって最善の医療を提供できる精神科臨床医になるため、私たちと共に学び、未来を築いてくれる新しい仲間を心よりお待ちしております。
聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室
主任教授 古茶大樹